SHIFTのAI活用事例|AI活用深掘りレポート
システムを入れたのに、仕事は減らなかった。(後編)──人の全件確認を、AIによる一次判定へ変える。
前編では、経費精算システムを導入しても、経理の仕事が思うように減らなかった理由を紹介しました。 SHIFTが選んだのは、既存システムをつくり直すことではなく、「確認と判断」という人の作業として残った仕事を切り出し、AIによる一次判定へ変える方法です。 後編では、その仕組みと効果、実運用で新たに見えてきた課題を紹介します。
目次
1.人が行っていた「判断」を、AIが扱える形にする
2.AIに任せるのは、「承認」ではなく「一次判定」
3.AIが判定しても、人が全件を見ていたら仕事は減らない
4.AI化できることと、AI化すべきことは同じではない
1.人が行っていた「判断」を、AIが扱える形にする
経費精算業務にAIを適用するうえで、まず行ったのは、経理担当者が何を確認し、どのような基準で判断しているのかを整理することでした。
前編で紹介したように、経理担当者が行っていたのは、データの入力や承認作業だけではありません。
たとえば経費精算では、
- 申請された日程と、勤怠上の出勤記録が一致しているか
- 出張稟議の内容と、実際の申請内容や金額に差異がないか
- 交通機関の利用区間が、社内規程で定められた条件を満たしているか
- 領収書の金額や日付が、申請内容と一致しているか
といった確認・判断を行っています。
しかし、こうした判断基準は必ずしもシステム上には整理されていません。そこでSHIFTでは、経費精算の工程や処理ごとに、経理担当者が参照している情報と判断基準を洗い出しました。
AIに業務を任せるためには、申請データを用意するだけでは足りません。経理担当者が日々の業務で行っていた確認と判断を一つずつ整理し、AIが判定に使える条件として設定する必要がありました。

2.AIに任せるのは、「承認」ではなく「一次判定」
整理した判断基準をもとに、SHIFTでは、AIが複数の情報を突合し、申請内容に問題がないかを一次判定する仕組みを構築してきました。
AIが確認をするのは、経費精算システムに入力された申請内容だけではありません。領収書の金額、日付、稟議内容、勤怠情報など、複数の情報を見比べながら、会社のルールに合っているかを確認し、判断します。
たとえば、こんな判定ルールをAIに与えます。
“バスの利用区間が規定の条件を超えていないか?”
“申請された日程と、勤怠上の出社記録・出張稟議の内容が正しく一致しているか?”
あらかじめ設定したルールに沿って、AIが申請内容を自動チェックし、問題がなければ「OK」、相違や判断できない場合は「NG」と判定を返す仕組みを構築しました。


ここで重要なのは、AIが申請を最終的に承認するわけではないということです。
SHIFTが目指したのは、経費精算業務をそのままAIへ置き換えることではありません。経理担当者が申請内容を人力で全量確認する状態から、AIによって事前に申請を振り分けて「一次判定」し、経理担当者は判断が必要な申請を中心に見る状態へ変えることでした。
SHIFTでは、この仕組みをまずは一部の部門(300〜500人規模)で試験的に運用しました。
その結果、全体の7割〜8割の申請をAIが読み取り、一次判定できようになり、経理担当者は、相違や例外の可能性がある申請を優先して対応できるようになりました。
そして、一次判定による確認作業の削減と同じくらい、それ以上に、現場から喜ばれたのが「申請差し戻しコミュニケーションの自動化」でした。
申請内容に不備があると、経理担当者は、何が条件に合わないのかを確認、申請者に個別連絡します。申請者から質問が戻ってくれば、また説明し、修正された内容を再び確認する必要があります。
このラリーがつらいのです。
経理担当者は、その専門性ゆえ社内規程や会計上のルールを正確に伝えようと努力します。一方、申請者にとっては、それらの説明だけでは、専門用語なども相まって具体的にどう対応すればいいのかという答えにたどりつけない。これが、経理担当者と申請者の双方にとってストレスとなり、業務の負担にもなりえるのです。
そこで、SHIFTでは、不備の差し戻し理由を伝える文面作成にもAIを活用しました。

AIが、どの情報が判断基準と合っていないのかを整理し、申請者が修正すべき内容を、専門用語を使わずに優しく噛み砕いて自然な文章として自動で返せるようにしました。
一件ごとに見れば、短いやり取りかもしれません。しかし、申請が集中する時期には、こうした確認の積み重ねが経理担当者の業務を圧迫します。申請者にとっても、何度も差し戻されることは、小さくない負担です。
AIが変えたのは、判定にかかる時間だけではありません。これによって経理担当者の手作業はもちろん、業務の間にあった、目に見えにくいストレスや経理担当者と申請者の間にあった、小さな摩擦も変わり始めました。
3.AIが判定しても、人が全件を見ていたら仕事は減らない
AIによる一次判定によって、経理担当者が確認すべき申請を絞り込めるようになりました。一方で、実際の業務へ適用する段階では、新たな課題も見えてきました。
AIが「問題なし」と判定しても、念のために経理担当者がすべての申請を“念のため”ともう一度確認するのであれば、確認作業は十分には減りません。
「AIが一次判定をした申請を、人はどこまで“見なくてもよい“のか」
これは重要な議論です。目的は、自動化をすることではなく、実際の業務に生かすことです。仕組みをつくることとは別に、AIの判定をどのような条件で実業務に取り入れるかを整理する必要がありました。
SHIFTでは、AIの判定精度が保たれているかを一定数のサンプリングによって確認し、その結果を記録することで検証を進めました。想定外の申請が発生した場合には、判断基準を見直し、継続的に調整する必要もあります。
どの処理をAIの一次判定に任せるのか。どの申請は人が確認するのか。判定結果をどのように記録し、あとから確認できる状態にするのか。こうした点を、実際の業務に合わせて整理していきました。
AIの仕組みをつくること以上に、その判定を人が安心安全に業務に取り入れられる状態をつくることが、次課題になりました。
4.AI化できることと、AI化すべきことは同じではない
経費精算業務の一部で見えてきた、AIによる一次判定の可能性。一方で、AIで判定できることをすべてAI化するべきとは限りません。
AIの活用によって効果が見込まれやすいのは、たとえば、処理件数が多く、同じような確認を繰り返している業務です。複数のシステムやデータを見比べていること、判断基準を一定程度整理できること、通常の処理と例外的な処理を分けられることも、一つの判断材料になります。
反対にいえば、処理件数が少ない業務や、案件ごとに判断条件が大きく異なる業務では、AIの仕組みを構築し、運用する費用に見合う効果、合理性を得られない場合があります。
さらに例外も多く、人による確認が必須という業務もあります。AIではなく、既存システムの設定変更、RPAなど、別の方法で対応したほうがよい場合も多くあるのです。
SHIFTが最初に考えるのは、この業務を変えるために最適な手段は何なのか。どうすれば実業務負荷やコスト削減が実現できるのか。ということです。これらの手段の一つとして、AIは存在しています。
SHIFT社内における、経費精算業務についても、最初から業務全体をAIへ置き換えようとしたわけではありません。既存のシステムを生かしながら、人が行っていた確認と判断を整理し、AIによる一次判定が適用できる部分を切り出しました。
そのうえで、対象を一部の部門に限定して運用し、AIの判定結果を経理担当者が確認しながら、判断基準や運用方法を調整しています。
すべてを一度に変えるのではなく、変えられる工程から始める。AIへ任せる部分と、人が引きつづき担う部分を分け、実際の結果を確かめながら適用範囲を検討する。SHIFTの経費精算業務における取り組みも、現在、その過程にあります。 経費精算業務の取り組みから見えてきた要点は、以下のとおりです。
(この記事の要点)
・経理担当者は、単に入力作業ではなく、複数情報を突き合わせる「確認と判断」を担っていた
・AIに任せたのは最終承認ではない。人が確認すべき申請を絞り込む「一次判定」だった
・人は、例外や相違のある申請を中心に人が確認する形に移行を進めている
・不備には、差し戻し理由の文面作成にもAIを活用。経理担当者と申請者双方の負担軽減を図った
・AIの判定を実業務へ取り入れるには、精度の継続確認、判定記録の保持、社内規程などが必要
・工程をすべてAI化するのではなく、業務量、例外の多さ、費用対効果を踏まえて対象を選ぶ
AIを導入すれば、すぐに仕事が減るわけではありません。人がどの情報を見て、どのような基準で判断しているのかを明らかにする。そのうえで、AIへ任せる部分と、人が担う部分を分け、運用にのせていく。
経費精算業務の取り組みを通じて、SHIFTが得た現在の答えです。
システムを入れたのに、仕事は減らなかった。(前編)──人の全件確認を、AIによる一次判定へ変える。
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